ブータンの慣用語句

よく使われる語句

(ブー タンミュージアムに来られる方、またはこれからブータンに初めて旅行されようとする方などのために、ブータンについての説明を、思いつくまま書きました。このウェブサイトの他の記載と重複していることもあります。この記事を書くに当たっては主に、 山本けいこ著、「ブータン 雷龍王国の扉」 明石書店、「地球の歩き方 ブータン」ダイヤモンド・ビッグ(株)編、「lonely planet.com, Bhutan」 などを参考にさせて頂きました。)

GNH:GNHとは、よく知られたGNP(Gross National Product)において、GNPのProduct(生産)のところをHappiness(幸福)に置き替えて作られた造語です。GNHは「国民総幸福」または「国民総幸福量」、「国民総幸福度」などに邦訳されることもあります。「ブータンは国の方針として、経済発展によるGNPの成長を目指すのではなく、国民全体の 幸福の量を増やすことを目標とする」と4代国王により最初に宣言されました。現在もブータンの政治における基本的な考え方になっています。

ゾン:中世のチベット仏教圏においては,聖界(宗教)と俗界(政治)とを明確に分けながら,その両者をブータン全体を治めるために、政教一致が目指されました。その宗教と政治を建築物の形でもっとも顕著に表しているのがゾンです。ゾンは日本の戦国時代の城のような軍事的な城でもあれば,地方行政の役所の役割を持つ庁舎でもあり,また同時にその地域における政府の僧院でもあります。ブータン国内ではそれぞれのゾンカック(県)にたいてい一つのゾンが存在しますからゾンは県庁なり県城と言ってもよいのですが,チベット仏教圏では宗教(聖)の方を政治(俗)より重んじる傾向があり,後に王政が確立するまでは、政府を牛耳っている仏教宗派の僧院に,県庁と県城の政治機能が同居したものとなりました。ゾンはそれぞれの町や村のシンボル的な建物であることが多く、観光にも人気があります。首都ティンプーにある大きなゾンは、タシチョゾ ンですが、そこには現在、国王が執務しているとともに、ブータン宗教界の最高位であるジェ・ケンポが住んでいます。ティンプーには別にシムトカ・ゾンもありますが、こちらは17世紀初めてブータンを統一したシャブドゥンが建てた歴史的なゾンで,現在では政庁の機能はもたず、若い僧たちのための仏教教育の場となっています。

 ゾンカ:12世紀頃から主に西ブータンで使われたと知られている言語で、1971年ブータンの独自の文化と伝統を守るために3代国王により国語と決められました。その後この言語の国語としての保護・普及のために、ゾンカ開発委員会(DDC)が創設されました。ブータン全土でゾンカが 学校のカリキュラムで必修の科目として教えられています。もともと普通の学校教育で使われた言葉は英語であり、英語も学校で学んでいます。ゾンカを母国語として育ったブータン人は国民の30%ぐらいで、その他の多くの子供にとっては、外国語を学ぶようにゾンカを勉強することになり、ブータンの子供 の言語学習の負担が重いという苦情を聞かれることもあります。

 ゾンカク:ブータン全土は20のゾンカクという地方行政区に分かれています。言わば日本の県のようなものですが、日本の県よりはその面積はずっと狭いです。ゾンカク名と同じ名前の町や村がそのゾンカクの行政的中心になっていることが多いですが。そうでないものとして、ブムタン・ゾンカクの中心の町はジャカルです。

ラカンとゴンパ:ブータンのお寺にはラカンとゴンパ(ゲンパとも発音されます)があります。ラカン(字義は「神殿」)は普通の寺院で仏教の拝殿ですが、ゴンパはラカンの機能の他に僧を長く滞在させる宿舎をもち、1つの自立した僧のコミュニティが維持できる寺院で、日本語では僧院とも呼ばれます。

ダショー、ロンポ、ジェ・ケンポ、グル、ラマ、リンポチェ:ダショーは国王から与えられる称号で、各省の大臣や次官など国の重要な地位にある人に与えられ、1代終身称号です。赤いカムニを装着し、パタ(patag)と呼ばれる長刀を帯びることが許されます。ロンポは大臣を意味します。現在首相の下に10人の大臣がいます。なお、首相の称号はロンチェン(Lyonchen)です。ジェ・ケンポは 宗教界の最高位にある僧に対する称号です。ジェ・ケンポは17世紀から続いている地位ですが、現在のジェ・ケンポは歴史上最も長く、1996年から 在位し続けております。ジェ・ケンポがつけるカムニは国王と同じサフラン色(明るい黄色)で、国王と地位が対等であることを意味しています。グルはサンスクリットで師(宗教上の指導者)を表し、ラマは上人(宗教上で学徳を備えた師僧)を表します。リンポチェは高僧の転生により生まれ変わり(化身)に対する尊称です。ブータン仏教では高僧が亡くなると、その生まれ変わりであるという子供を捜し出してきます。グル・リンポチェは8世紀にチベットで布教活動を行い、ブータンに仏教を伝えたとされる僧パドマサンバヴァをさします。ブータンの多くの人は、グル・リンポチェの仏画を家の仏壇に掲げて、仏の祈りを捧げています。

ゴとキラ:ブータンでは着衣規定により、ブータン国民は公式の場では、民族衣装を着用しなければならないと決められています。民族衣装として現在最も多く着られているものが、男性用はゴ、女性用はキラです。ゴは 日本のどてらに似ており、丈は足首ぐらいまで長く、幅は身体の3倍ぐらいある着物を身体に巻くように着ます。帯を締めるとき、帯の上で着物を大きくはし折 り、ふところを深くしながらたくし上げ、着物の裾を膝までに上げます。深いふところは大きなポケットとして使います。ゴの下には白地の袖の長いテュゴと呼 ばれる下着を着ていて、袖をゴの袖の上に折り返します。テュゴの襟も外に出します。公式の場には、ゾン、政府の役所、学校、寺院などが含まれます。小学生の 男子もゴを着ていますが、夏は暑く、学校の帰り道でゴを肩から外し、下に垂れ下げている姿がよく見かけられます。キラを着るには、まずウォンジュという薄い布でできたブラウスを着ます。その上に高さが脇下から足元まで、幅1.5メートルから2メートルぐらいの好みのデザインの布(キラ)を身体に巻き付けます。キラは肩の位置でコマと呼ばれるブローチのようなもので留めます。さらにテュゴという羽織状の上着を重ねて袖口を折り返します。普段の生活に、本来のキラをきることは、少々負担に感じるので、ハーフキラという簡便な着方のできるものが、良く着られています。

カムニ、ラチュー、カダ:ブータン人が高僧や政府の高官と面会するとき、ゾンの中に入るとき、公務員が役所で仕事するときなどでは、民族服の上に男はカムニ、女はラチューを着けることが作法となっています。カムニは幅80cmぐらい、長さが4メートルぐらいの布で左肩と右の裾の間を身体に斜めに巻きつけるものです。布の色は公的な地位によって異なり、国王はサフラン色(明るい黄色)、大臣はオレンジ色、ダショーは赤などと決められています。普通の人は白です。ラチューは細長い主に赤系の色の布でそれを横方向に2つ折りにし、(縦方向も2つ折りにすることもある)幅10cmぐらいにして、左肩に背中と前の胸に跨って垂れ下がるように掛けます。カダは タオルぐらいの幅で、長さは2、3メートルある細長い純白の絹布で両端が房状になっています。冠婚葬祭に客として訪問したとき相手方に渡します。国王や ジェ・ケンポに会うとき最初にカダを献上します。新大臣が指名された後、部下となるその省の人々が、大臣への就任を祝って、次々祝辞を述べながらカダを献 上する祝賀行事が行われます。

 チョルテン:仏塔であり、これはもともと釈尊の遺骨を安置するための構造物でしたが、時代とともに、また遠くの地域に伝わっていくうちに、チョルテンが いろいろな目的で作られるようになりました。ブータンでは大小いろいろな形のチョルテンがあちこちで見られます。お墓の意味はなく、祈りの対象物として作 られています。有名なものにティンプーにあるメモリアル・チョルテンがあり、これは1972年に亡くなった3代国王が生前発願したものを国家事業として引 継ぎ、1974年完成したものです。ここでは毎日多くの人々がその周囲を必ず左回りに回りながら祈りを繰返しています。タシヤンツェのチョルテン・コラ、 トンサの近くにあるチェンデブジ・チョルテンなどは特に大きく有名です。ダショー西岡のチョルテンがパロの丘に建てられています。

マニ車:経文をその中に入れた円筒状のもので、手で回すことができるように作られています。1回回す毎に1回の経文を唱えたことになると考えられています。大き さはいろいろで、小さいものは片手で持って容易に回せるものがあります。メモリアル・チョルテンなどでは、それを周りながら手に持ったマニ車を回している 人の姿が見かけられます。ゾンの入口などにある大きいものは、高さが2メートル程のものがあり、回すのにかなりの力を要します。お寺の外壁にたくさんのマ ニ車が埋め込んであり、人がお寺の周りを左周りに歩きながら順々にマニ車を回しながら歩いている風景もよく見かけられます。山中の道の端に、流れる水で回 るような仕掛けをしたマニ車もあります。

ダルシン、ルンタ、ハダル:ダルシンは経文または仏画が印刷された何枚もの布(旗)を縦に並べ、それらを垂直に建てた長い棒に取り付けた旗です。旗が風にはためく度に経文の祈りが周囲に広がることを願っています。山の上やお寺の庭などに、ダルシンが何本も集めて林立している風景が見られます。ルンタはダルシンが長い棒を使う代わりに長いロープを使い、馬の絵と経文が印刷された五色の小旗をたくさん取りつけ、離れた木の枝にロープの端を結んで旗を風にたなびかせます。木の枝の代わりに建物や橋の欄干に取りつけることもあります。目的はダルシンと同じです。ハダルはゾンの前などに立てる大きな旗で、旗には経文は描かれず、トラや獅子、龍などが神として描かれています。

タンカとトンドル:タンカは布に描かれた仏画で、壁に掛けられるようにしたものです。ブータンの家の仏壇ではたいてい仏の像を描いたタンカを飾られます。トンドルは巨大なタンカで、材質は総絹で刺繍や布の縫い付けにより、主にグル・リンポチェが描かれています。普通ゾンや僧院の建物の外壁に掛けられます。パロのツェチュの際のトンドルの開帳には、特に多くの人が集まります。

ツェチュ:ブータン中のゾンや寺院で毎年行われる宗教的な祭りのことです。ツェチュは 「十日」を意味し,8世紀にブータンやチベットに仏教を広めたとされる高僧グル・リンポチェ(パドマサンバヴァ)の誕生日とされている「十日」の日に,パ ドマサンバヴァをお祝いする祭りです。ブータン暦(太陰暦,旧暦)の毎月の「十日」にそのお祈りが行われていますが,ゾンごとに大祭として行うのは年に1 回のみで,一般にツェチュ祭として知られるのはその大祭のことです。旧暦のどの月に行うかはゾンによって異なるので各地で様々な月に催されます。太陰暦の 月・日のカレンダーにしたがって開催されるため,西洋暦(太陽暦,新暦)で見るとツェチュ祭の行われる月日は、同じゾンでも年によって異なってきます。 ツェチュ祭の開催日数も場所によってまちまちですが平均的には3日間ぐらいです。この祭は様々な町や村から人が集まる一大イベントであり,集まった人々は 8世紀のグル・パドマサンバヴァの生涯の出来事を舞踊で表した宗教的なマスクダンスを見て楽しみます。パロ、ティンプー、プナカなどの有名なチェチュ祭に は外国人観光客がたくさん訪れ,ブータン観光の目玉になっています。

 ドマ: ブータン人の老若男女が好きな嗜好品で、噛みタバコとも呼ばれていますが、タバコとは似ても似つかぬものです。ビンローという樹の実(くりの実ぐらいの 大きさ)の皮をむいたものを、胡椒のなかまのキンマという木の葉に石灰を塗ったもので包んで口の中に入れて、長く噛みます。真っ赤な唾液が口の中にたま り、それを唾として吐けば、道路や寺の境内を汚すので注意が必要です。