栗田講演要旨

ブータンミュージアム6 周年記念講演会より

「博物館」から「博情報館」へ

2018 年11 月11 日
国立民族学博物館名誉教授 栗田靖之

 博物館の魅力は、なんといっても本物のモノが持つ魅力である。宝物拝観の場、「テンプルとしての博物館」としてだけでではなく、展示をめぐって対話をする場としての「フォーラム型の博物館」になる必要がある。ブータン文化を例にとると、今までは、展示する側が「私はブータンをこのように見ている」という展示であった。しかしこれからの博物館は「展示する側」の見解のほかに、世界がグローバル化した結果、ブータンの人々が「我々の文化や社会をこのように見て欲しい」という「展示される側」の意見が加わる。それと同時に、その展示を見た観客が「ブータンではどうしてこのようなものを用いるのか、これにはどのような意味があるのだろうか」という疑問に答える場を提供することが必要となる。それらの疑問に答える第一歩が、展示品に付ける説明文で、キャプションは、その展示をした研究者あるいは学芸員の研究発表の場である。キャプションには、研究者、学芸員が署名するべきである。しかし展示を見た人の疑問は、その解説文を見ただけでは解決しない場合がある。いうなれば、より一層の疑問が出てくることがある。

 そのような一層の疑問に対して答える材料を与えるのが、図書室や学習室である。まず不思議だと思ったことをインターネット、辞書や百科事典で調べる。それでもなお疑問が解決しない場合は本を読む。その本も、新書版を読んで疑問が解決する場合もあるし、専門書を読む必要がある場合もある。あるいはこれからは映像資料も必要となるであろう。博物館は、展示を見て触発された好奇心のレベルに応じて、情報を提供する場でもあるべきである。その意味で、モノの展示は疑問の出発点で、その疑問に徹底的に付き合うのが「博情報館」である。

 本物を見てそのモノの持つ迫力に触発されて、知的好奇心が刺激される例として、国立民族学博物館が学校教育に協力してつくった「みんぱっく」を紹介する。小学校で国際理解教育にブータンのことを勉強しようとする場合、教師にはブータンに関する教材がない。そこで国立民族学博物館に連絡し、ブータンに関する資料を借りたいと申し出る。そうするとスーツケースに入った教材のパックが送られてくる。これを「みんぱっく」と呼んでいる。「みんぱっく」は、ブータンに対する子供たちの好奇心を触発する出張博物館の役割を果たしている。

 これからのブータン・ミュージアムが、本物を展示する「博物館」だけに止まることなく、ブータンの文化についてのフォーラムの場として、多様な情報を提供する「博情報館」へと一層の発展をすることを期待したい。