ブータンの公用語

ブータンの公用語

  ブータンの公用語は、ゾンカと英語です。ゾンカはブータンの国語であり、学校では必ずゾンカが教えられています。歴史的にブータンに普通学校教育が導入された当初から、英語で授業が 行われています。ブータンの学校、役所、会社などで、仕事上、主に英語が使われています。英語を話すこと が出来れば、ブータンに旅行したとき、ことばで困ることは、ほとんどありません。

 ブー タンは小さい国でありながら、ブータン全土ではだいたい、19もの異なった言語が使われております。なぜこんなに多くの言葉が使われてきたのでしょうか。 ブータンは険しいヒマラヤの山国で、昔から山を隔てた地域と地域の間で人の交流が少なくなって、長い間それぞれの地域で独自の言語文化が発達してきたからです。

  ブータンの言語についての記録によると、12世紀には、ティンプー、プナカ、パロ、ハやダガナなどブータンの西の地域で、ゾンカを話し言葉として使われていま した。シャブドゥン・ンガワン・ナムゲルというチベットの高僧は、1616年チベットからブータンにやって来て国を統一し、ティンプーとプナカを宗教と政治の中心にして、ブータン全土を支配しました。国 全体ではいろいろな言語が使われていたので、国を治めるためにゾンカを、ブータン全体の共通語として使いました。3代国王ジグメ・ドルジ・ワンチュクは、これ まで国際的に閉鎖状態であった国を世界に開き、変化と発展の新たな時代に国を導きました。3代国王の選んだ最も重要な政策の一つが、英語による近代的な教育 を推進したことです。この教育を受けた人は、英語圏の外国で言葉の障壁をもつことなく、さらに先進的な教育を受けることができました。3代国王はまた国としてブータ ン独自の文化と伝統を守ることも非常に重要であると考え、1971年にゾンカがブータンの国語であると宣言し、国の独自性を維持するために、ゾンカの保護と 普及の政策がとられました。ゾンカ開発委員会(DDC)が1986年に創設され、ゾンカの標準化、文法、文字の表記法、コンピュータによる言語処理など、DDCはゾ ンカに関する研究を推進しました。この組織はゾンカの国民への普及と学校での教育などに、指導的な役割を果たしてきました。文字については、チベットから伝 わっていた文字に、ゾンカに合うように表記法に修正を加えて、ゾンカの記述に使えるようにしました。技術の進歩に合わせて、新しいゾンカの単語も作られています。DDCの活動については、 DDCのホームページで詳しく報告されています。また、ここからゾンカの文法や辞書など、ゾンカに関するいろいろな知識が得られます。

  ブータン政府はゾンカの保護と開発を強力に推し進めていますが、公用語をゾンカに絞ろうとか、英語の使用を減らそうという動きは特にありません。ゾンカには例えば自然科学や技術の分野で表現できる言葉がないものがあるなどの問題があるので、今のところブータンの人にとって、英語の使用は欠かせません。

  ブータンの主な新聞はクエンセルですが、英語版とゾンカ版が、発刊の当初から発行されています。ゾンカ版の発行数は、英語版の発行数に比べて、最近かなり少なくなってきているということが言われています。ブータン人でもゾ ンカ版より英語版の新聞の方を好む人の方が多いということのようです。ブータンの放送局はBBSですが、ここでもゾンカ語と英語の両方で放送されています。この ために2元放送として、人々はチャネルを切り替えて2つの言語による放送を受信できます。

  ゾンカ語を母国語として育った人は国民の28%で、国民の55%が基本的なゾンカを読み書きができるという2010年頃の統計データがあります。普通学校教育が普及して、その教育を受けたブータン国民が増加するにしたがい、これらの数値は大きく変わっていくと考えられます。ブータンの学校では、どの 段階でも重要な科目としてゾンカを教えられていていますが、大部分の生徒にとって、ゾンカは難しい言語で、重い負担になっているようです。